Side - A
バスの一人旅は初めてだった。
そこには見ず知らずの人との新鮮な会話を楽しむ自分がいた。
妻が他界して半年。
ひとり暮らしにも慣れてきたが、
どことなく張り合いのない日々を送っていた。
ある日、新聞を眺めていると、
妻と行った温泉地が載っていた。
そしてふと、妻の言葉を思い出した。
「私はもしひとりになっても旅行に行くわ。
だって新しい何かに出会えるから。」
インターネットで検索すると、
その温泉地への直行バスが見つかった。
そして妻の言葉に促されるように
気がついたら予約していた。
バスのシートが心地良い。
窓からの景色も今は澄んで見える。
片道1時間半のささやかなバスの旅で、
私の気分は変わろうとしていた。